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仙台高等裁判所 昭和54年(ラ)73号 決定

抗告人 株式会社大沢建材

右代表者代表取締役 大沢国夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二、抗告人の主張する事実関係の要旨は次のとおりである。

東北産業株式会社(代表取締役は本件債務者鎌田貞造)は、昭和五四年六月三〇日岩手いすゞ自動車株式会社との間に、債務確認並びに弁済に関する契約を締結し、自動車代金五八八万九四七四円の債務を確認し、これを昭和五四年九月から同年一二月まで毎月末日に分割弁済することを約し、抗告人は東北産業の右債務につき連帯保証をした。

抗告人は、東北産業に対する将来の求償債権の確保のため、昭和五四年七月一七日、債務者所有の不動産(土地、建物合計八筆)に抵当権の設定を受け、同年八月三一日抵当権設定登記を得た。右不動産は、債務者が昭和五二年五月二一日第三債務者大巻八郎から買戻約款付きで買い受けたものであり、右不動産には、昭和五二年六月二四日受付で、債務者のための所有権移転登記及び第三債務者のための買戻特約の登記がなされている。

抗告人は、「第三債務者が債務者に対して本件不動産につき買戻権を行使すれば、先の売買契約は解除され、抗告人が債務者に対して有する前記抵当権は当然に消滅するのであるから、債権者は民法三七二条、三〇四条の規定による物上代位に基づき債務者の第三債務者に対する買戻代金債権につき差押命令を求める。」と主張して本件差押命令を申請した。

三、当裁判所の判断

民法五七九条は、不動産の売主は売買契約と同時になした買戻の特約により、その売買の解除をすることができる旨規定する。すなわち、買戻は先の売買の解除である。解除はいわゆる遡及効を有するから、買戻権の行使により先の売買契約は遡及的に消滅し、買戻特約の登記の後になされた処分はすべて効力を失うに至る。抗告人の主張によれば、その有する抵当権は買戻特約の登記に後れることが明らかであるから、もし第三債務者が買戻の意思表示をすれば、債務者と第三債務者との間の本件不動産の売買契約は遡及的に消滅し、抗告人の抵当権もまた始めからなかったことに帰する。

抵当権による物上代位は、抵当権の存在を前提とし、抵当権の目的たる不動産が売買その他の事由により金銭その他の物に代わった場合に、その金銭等に対し抵当権を行使するものである。本件の場合、買戻権の行使により抗告人の抵当権は消滅するのであるから、抵当権の存在を前提とする物上代位を生ずる余地はない。したがって、抗告人の主張は採用することができない。

よって、原決定は相当であって本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大和勇美 裁判官 石川良雄 宮村素之)

〈以下省略〉

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